陳情の全会一致採択を導いた足跡
国政あるいは市政について、意見や要望があるときはだれでも議会に請願や陳情を提出することができる。これは日本国憲法第16条に定められた国民の権利である。請願については地方自治法第124条に議員の紹介により請願書を提出しなければならないと規定されている。一方で、陳情は手続きや形式の定めはないが、一人の市民(住民)が希望や要望を述べることができるとされている。
請願も陳情も議会で採択されるためには、議員の過半数の賛成が必要である。紹介議員が賛同して提出された請願であっても、手続きとしては議会に諮られるとしても、少数議員の賛同のみでは採択には至らないことが多い。
2022年12月13日(火)午前、SNSに発信された陳情採択が驚くべき出来事であることは、フェースブック発信に反応した閲覧者のいいね260、シェア238ならびにコメントの一つ一つを辿るとわかる。
陳情者の訴える力
この陳情は、マスクの同調圧力に耐えられず登校できていない子どもをなんとか助けたい一人の保護者が陳情という手段で議会に訴えた、この書面1枚に始まる物語である。
この訴えが結果を導いた最も重要な要因は、”訴えの力”だろう。裁判では当事者適格とも言われるが、マスク着脱に関して子どもが自分の意思を行使できない状態が、現場の教師の半強制的な指導や理由のない同調圧力に因って発生している。周りの目に耐えられず登校できない子どもの状態は、明らかに過剰な感染症対策の被害に該当する。誰が聞いても、不合理な被害を被っている親子の状態をなんとか回復しないといけないとの認識が議会で拡がったことになる。陳情には”訴える力”を備えた当事者が訴えないといけない。
市民に寄り添った民主制度
賛同議員に託して請願書の提出を選択する可能性もあったが、陳情者は請願を議員に託すと項目の選択や文言の選択を議員や会派間の調整などのために、訴えの内容に変更が加えられてしまうことを懸念して、陳情を選択したという。
埼玉県では市町村陳情が議会で取り上げられるケースは稀であるが、幸運にも和光市は住民からの陳情を丁寧に議会審議に諮るという運営・制度が整っていた。
これと同趣旨の陳情による訴えが埼玉県63市町村で行なわれているが、陳情が全会一致で採択されるケースは稀であった。結果に違いを生んだのは和光市議会が市民に寄り添った制度運用をしているところが大きい。
議員の調整手腕
陳情は請願と異なり紹介議員がおらず、住民が議会に提出する。この案件の陳情者は、事前にすべての議員に電話をし、直接お会いして議員一人1~2時間をかけて丁寧に説明を行なっている。最初の接触で複数の議員から賛同の感触を得ていたが、当初から多数の議員に賛同をしてもらえた分けではなかった。
最初に賛同を表した議員と陳情者が、他の議員ならびに他の会派を粘り強く説得するという地道な努力を重ね賛同議員を増やしていった。
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